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卒業生インタビューVol.7「IT業界から介護福祉ビジネス起業へ」

読了時間: 13分

現在日本の介護福祉をけん引されている鹿野祐介さん。APU卒業直後の大手IT企業時代を経て学生時代から一貫して大切にしてきたことや、現在に至るまでの心情の変化など、鹿野さんのビジョンを伺うことができました。

【卒業生プロフィール】

氏名:鹿野佑介さん
卒業年:2010年 アジア太平洋マネジメント学部(APM、現国際経営学部)
大学時代の活動:学生投資団体創設、自主活動奨励金授与
現職:株式会社ウェルモ 代表取締役CEO

一般社団法人日本ケアテック協会 代表理事。東京大学 高齢社会総合研究機構 共同研究員。大阪府豊中市出身。株式会社ワークスアプリケーションズにて人事領域のITコンサルタントとして勤務後、東証一部上場企業人事部へ。その後8か月間にわたり、仙台から福岡まで、約400法人超の介護事業所にてボランティアやインタビューを実施し、福祉現場の働きがいに課題を感じて2013年ウェルモを創業。厚生労働省、経済産業省、総務省、文部科学省等にて講師を務める。Forbes JAPAN 2018 NEW INNOVATOR 日本の担い手99選出。経済産業省主催ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2019にて最多受賞。

現在行われている事業について教えてください。

ウェルモでは「持続可能な少子高齢社会の実現」をミッションに掲げ、在宅医療介護領域と児童福祉領域でサービスを展開しています。在宅医療介護領域では、少子高齢化がすすむなか、少ない人数でも質の良いケアを行うためにITやAI等の先端技術を活用することで、利用者本位の介護の実現を目指しています。児童福祉領域では、児童発達支援・放課後等デイサービスの展開・運営を通して、子どもたちの可能性を解放することを目指しています。
主な事業としては、大きく4つのサービスを展開しています。まず、介護の地域資源情報を集約するプラットフォーム「ミルモネット」を運営しています。それぞれの事業所の写真やリハビリ機材、認知症のケアなどを検索できるシステムです。さらに、ここで集めたデータを活用し、「ミルモわーく」という人材紹介のサービスも運営しています。人材紹介や就職のためのマッチングとして機能しており、求職者が事前に得られるデータが増えたことで、離職率の低下につながっています。またケアマネジャーの方々に向けて、「ミルモぷらん」という、症状に合わせたケアの提案や計画書の文章作成を支援するAIを開発しました。そして、発達障害を持つ子どもたちを支援する施設「unico」の運営も行っており、彼らが世界に羽ばたけるよう、「子どもたちの可能性を解放する」というテーマで教育やケアを行っています。

介護に関する会社を立ち上げられたきっかけは何ですか?

ビジネス現場と介護現場の心の在り方のちがいを感じたことが大きなきっかけです。前職はITコンサルタントで大企業の方と仕事をしていましたが、介護ボランティアに行き、仕事へのあり方の違いに驚きました。
IT業界にいた際は企業の一員で、そこは目に見える成果が評価される資本主義の世界でした。それに対して介護現場では、ビジネス的な成果があまりないと感じました。最終的には人は寿命で亡くなってしまうので、どれだけ頑張っても、長い目で見て元気でいられることはほとんどないのです。それでも介護者の方は、人が喜んでくれて、笑顔を見ることで自分も幸せになることができる。普段、ビジネスの前線に出ていたので、これが仕事になっているということにとても驚き、感動しました。育った環境や温かさの感受性など、幸福観は人によって違いますし、より良い亡くなりかたは一人ひとり違うので、正解がありませんし、成果も見えにくい。ビジネスとは真逆ですが、こっちのほうが人間っぽいなって感じました。人間の本来の心の在り方が見えたような気がして、これを守っていきたいと思いました。 ただ、このまま高齢者が増え続けると介護者が疲弊し、人手が足りなくなって、歯車のように量をこなすような機能的な形に変貌してしまうのではないかと心配になりました。介護者も高齢者も幸せではない環境になってしまうと、生まれてから多くの時間を幸せに過ごすことができない人が増えてしまうと危機感を持ちました。

心と心のつながりを大切にする介護現場では、ITなどの機械的な技術が受け入れられにくいという課題もあると思います。どのようにして、課題を乗り越えてこられましたか?

そうですね。ビジネスは成果主義のためITで効率を上げることを目的にしますが、介護関係者の方は心に寄り添うような温かさを重視するので、機械を持ち込むことが少し難しくはありました。ITや技術の介入によって、人と人との距離はどうしても離れてしまいます。本来なら人が声をかけて見守っていたのが、ロボットによる介護やセンサーでの管理になることで、コミュニケーションは減ってしまいます。一言であったとしても、声掛けなどの交流が減ると、心で対話をする機会が奪われてしまうのです。効率と寄り添う力って真逆で、だからこそ、機械や技術を嫌がる人が介護現場には多かったですね。
これを乗り越えるため、目的を伝え続けました。我々は介護内容を効率化するためではなく、高齢者の方をもっと幸せにし、超高齢化が進む中で支えるべき人をより多くカバーするためにITを使っています。これからものすごく高齢者が増える中で、効率を求めていかなければ、介護者が疲弊しサービスの質を保つことができなくなります。なかには介護サービスを受けることのできない高齢者も出てくるかもしれません。そんな世界、悲しいと思いませんか?だからこそ、ITというツールを使って業務効率を上げたり、教育コストを削減したりする必要があるんです。少ない人手でも、今の介護サービスをより多くの方に届けられるようにすれば、社会全体の幸福度が上がるのではないでしょうか。この目的を伝え続け、未だに誤解されている部分はありますが、2013年に起業してから、社会は少し変わったと感じています。弊社では、機能や成果にフォーカスするのではなく、これで何をしたいのかという本質的なビジョンや目的に重きを置いて伝えています。

もともと人見知りで組織運営が苦手な性格だったと伺いましたが、現在様々な方を巻き込んで運営されていますね。その求心力の秘訣は何でしょうか?

批判を素直に受けとめ、一歩ずつ成長していくことだと思います。また、APUでサークル運営をしたことから多くの経験と学びを得ました。実は、理系だったこともあり、パソコンをいじったり機械を触ったりすることが、人とわいわいするよりも好きでした。どちらかというと交友関係は狭く、仲のいい人たちといたいという感じで、人見知りだったように思います。 大学在学中にサークルをつくりましたが、APUには様々な個性を持った人が多くいました。2年目で70人くらいのサークルになり、何十人をまとめてリードする経験は初めてだったので、わからないことばかりで大変でした。共通認識を得る、1人1人と対話して納得してもらうといったことを、サークル運営を通して一つずつ学びましたね。でも、喧嘩になったり、人が辞めていったり、毎回毎回失敗でした。一人ひとりが自由な分やりたいことがバラバラで、それを訴求してまとめる方法を先輩に聞いたり、本を読んだりして追求しました。ミスで心を折らないことが大事だと思います。 裏切られたり、色々と言われたりすることはたくさんありますが、そんなことを気にしていては新しいものを作り出すことはできないので、今の自分を素直に受け入れることが必要です。今できていないことは自分でもわかっているので、批判など言われたことは受け入れます。ただ、これらを一つひとつ改善していったら、次のステージへと成長でき、全部改善できたときには何も言われなくなると思います。今の批判は全部受け止めて、気にしない。心を折らずに一つひとつ改善していくというのが大切です。

何事にも前向きに取り組むことのできる鹿野さんのエネルギー源は何ですか?

負けず嫌いな性格とWill(意志)が強いことだと思います。MustやShouldが嫌いなので、自分のやりたいという気持ち、Willが生きていると感じます。小さいころから自己決定をさせてもらえていたことが大きかったですね。中学校や高校で、学校に行きたくないときに、「行かなくてもいいんじゃない?」と認めてもらえる環境でした。自分のやりたいことを信じて、「この子に任せています」と言ってくれる親だったので、自分の意志を強く持てるようになったと思います。また、利他の精神は、一緒に住んでいたおばあちゃんに「人のためになることをやりなさい」と小さなころから言われてきたことに起因していると感じます。この意志の強さ、人のためにという2つが今につながっていますね。

APUを選択された理由を教えてください。

APUを選んだ一番の理由は、イタリアで仕事をさせていただいた経験からです。実はAPUに入る前にイタリアで仕事をしました。どちらかというと内向的な性格だったこともあって、あえて外の世界に出ました。イタリア語も分からないなかで、からかわれたりすることもあったのですが、イタリア人の陽気さや自由さに驚きました。そこで、グローバルに働く面白さに気が付き、視野を広げたい、海外に目を向けてもっと学びたい、と感じました。そこで、学内にグローバルな環境があり、理系以外の学問を学べるAPUを見つけ、挑戦しました。大学時代の出会いから、今も会社をサポートしてくれる友人もおり、APUでの経験が今につながっていると感じています。

これからのビジョンについて教えてください。

もう少し人間としての愛情や思いやり、心のつながりや対話を大切にできる社会にできればと思っています。介護現場で出会った80代以上の方は、神道や仏教など、人間として美しい生き方を模索する哲学的な側面を大事に生きていらっしゃる人が多かったです。それに対して、現在の社会は、資本主義・経済中心で、結果主義や偏差値など目に見える成果での評価が中心であるように感じます。今の若い世代には、メリット・デメリットだけで功利的に行動してしまう人が多いような気がします。少し冷たい人が増えてしまったように感じていて、日本人の温かい心に戻った方が人間らしいなと感じています。
ただ懐古主義に浸るというわけではなく、失われてしまった日本人としての良さを取り戻したいと考えています。資本主義のシステムを少し変えて、本当に頑張っている人が報われる社会にしたい。そして、日本の社会を持続可能なものにしていきたいと思っています。

心の豊かさを身に付けるためのヒントを教えてください。

APUの学生さんは人に興味のあるかたが多いので、心の豊かさをかなり持っているほうだと思います。そしてAPUでは、自分のやりたいことを大事にする人が多いと思います。自分を大切にできない人は、人を大切にすることができないので、1番大事なのは自分を大切にすることですね。まずは、自分で決めるという自己決定を意識してほしいと思います。そして意思決定の全責任を自身で負うこと。また、自己肯定感を高めるために、自分が決めたことを一個一個達成していくことが大切です。目標は小さくていいので、毎日少しずつ達成していってください。
そして、困った人を放っておかないということです。メリット・デメリットで考えると、人を助けるということはデメリットのほうが大きいと思いますが、社会全体がこの価値観で動くと嫌な世界になってしまいます。それに加担せずに、誠実さや徳など、より良い社会を作る一員として人格を磨いていく必要があると思います。英語などのスキルに人は着目しがちですが、これは目に見える成果で内面の美しさとは異なります。それよりも、一緒に居たいと思えるような存在を目指して魅力的な人間になったほうが、幸せになれると考えています。
幸福度は孤独さと密接に関係していて、より良い人間関係が最も大切です。お金はあまり関係ないと思っています。スキルはいつか消えることや、必要とされなくなることがあるかもしれませんが、人との信頼関係を作れる力があれば、どんな世界になっても幸福度に影響がないと思います。感情資産(人と人の絆や、心に残る人との思い出)を貯めていくことが、幸せな人生を作るためのヒントだと考えています。人間としての在り方、どんな風に人と接したいのか、誰を幸せにしたいのか、自分をどう幸せにできるのかなどを考えて、一つ一つ行動していくことが必要だと思います。

在学生へのメッセージをお願いします。

学生時代の時間がたくさんある時期に、興味のあることを多く経験し、全力で挑戦し、失敗し、本気で恋愛をし、密度の濃い時間を過ごすことはかけがえのない宝物になります。心の底から無限に湧いてくるエネルギーポイントは自分にとってどんなものなのか、様々な経験を通して自分自身の内面を見つめることで、気づくことができると思います。是非、時間のあるうちに自分の心と対峙して見てください。自分にしか出来ない使命がきっと見えてくるはずです。目の前のお金や快楽、他人からの評価ではなく、人の役に立つ真に興味のあることを見つけてください。そこにすべての素晴らしい可能性と未来が広がっています。良き人生になるよう応援しています。

Loop.A.S. インタビュアー

名前:太田愛
学部:APS
こんにちは!APS 2回生の太田愛です。料理をすることが好きで、世界の色々な料理が作れるようになりたいです。美味しいメニューや一押しの料理があれば教えてください!!インタビュー記事が卒業生の方と在校生の懸け橋となり、皆さんの視野や可能性を広げるきっかけになれば嬉しいです!

Loop.A.S.
Loop.A.S.

”LOOP”で始まる名前が物語るように、学生団体「Loop.A.S.(ルーパス)」は、APUの卒業生(校友)と在校生を結びつけ、様々な活動やイベントを通じてAPU生にチャンスを広げることを目指して活動しています。APU校友会と協力して、校友と学生が出会い、知識を共有し、在学中や卒業後のより良い生活について理解を深められるような機会を作っています。
学生ブログでは、Loop.A.S.による校友へのインタビュー記事を転載しています。




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